急性肺血栓塞栓症は日本では従来稀な疾患と考えられていましたが、最近わが国においても増加してきており、決して稀な疾患とはいえなくなっています。成田空港で、飛行機を降りた後に突然死するエコノミークラス症候群としてもマスコミなどでも注目されている疾患です。また、入院中の患者様で術後の安静臥床が長くなった患者では注意しなければならない入院や手術後の合併症の一つでもあり多数の事故が報告されるようになってきています。
本年、四国医学雑誌に発表した、「徳島肺塞栓研究会」による徳島県における急性肺血栓塞栓の診断や治療実態に関する多施設共同研究の結果を示します。
急性肺血栓塞栓の前兆として、下肢(ふくらはぎ)の痛みを伴う腫れ、突然生じた息苦しさ、胸の痛み、血圧の低下、脈の増加などがあります。しかし、この症状は、急性心筋梗塞・大動脈解離・肺炎・うっ血性心不全・肺気腫や慢性気管支炎・気胸・胸腔内腫瘍等の疾患の症状にもにているため、診断に苦慮することもあります。
肺血栓塞栓を起こしやすい体質(危険因子)としては、肥満、妊娠、ステロイドなどの特殊な薬を服用している、癌や肺炎などで体力や免疫力が低下している、脳梗塞や手術などで長期間ベッドに横に寝ている、などが挙げられます。また、特に危険因子を持たない方でも、長時間同じ姿勢でいると数時間で足に血の塊(血栓)ができますので、長距離の飛行機やバスなどの乗車中でも足の運動を行う、水分をこまめに取るなどの自己防衛が大事になります。
治療は、血栓をできにくくする薬(ワーファリン)の内服治療が中心となりますが、急性期で血圧などが不安定な人では、血栓溶解や下大静脈フィルター留置術などの緊急処置が必要となります。未治療例での塞栓再発率はおよそ50%とされ、これらの再発の約50%ほどが致命的となります。抗凝固治療により再発率は約5%まで低下します。
以上の様な、急性期死亡率が26%と非常に高いという徳島県の急性肺塞栓治療の現状と対策を徳島医学雑誌に報告しました。急性肺血栓塞栓の前兆をより早期に発見し、予防処置を講じ、緊急で治療できるような医療体制の充実が望まれています。
治療効果を示します。
急性肺血栓塞栓症は早期に適切な
治療を行うことで約80%の患者様
は改善しています。